私のB-Pスピリット研究 B

「隊長の手引」に記されたB-Pスピリット
―― Scoutmaster’s own personal example ――


私のB-Pスピリット研究
 ボーイスカウトの創始者B-P(Robert Stephenson Smyth Baden-Powell 1857.2.22-1941.1.8)は、ボーイスカウトを進めるにあたって、多くの本を著しています。私は、それを読むことを通して、B-Pの考えを知り、ボーイスカウト活動を進めるための手本にしようと若い時より思っていました。でも、邦訳されたB-Pの著書の読解は、私にとってはけっこう難解で、消化不良というのが私の感覚でした。
 今日では、世界の人々の好意により、インターネットを通して、B-Pの著書の原文が容易に閲覧できるようになっています。その原文を通して、自分なりに読み直してみたいと思うようになりました。
 それを通して、B-Pスピリットなるものを改めてつかみ取ってみたいと欲し、定年退職後の時間的余裕を活用して、既訳本と原文を照らし合わせながらゆっくり読み進めてみることにしました。そしてこれをまとめることは、実は私の四十年来の宿題でもありました。
 ここに記したことは、その取り組みを経て、自分なりに感じ取ったことの中間的試行的まとめ又は報告書です。少なからず英語が得意でない者の解釈ですので、本当に正確に英文を読み取っているかどうかはあやしいです。でもなんとか著してみました。これを読んでくださる人がもしおられるのであれば、私の愚行に対する感想なりを伝えていただけると嬉しいです。
 日本連盟発行本はじめ既訳の解釈とは異なった解釈をしたところが何箇所かあります。そのあたりの所見や批判等も届けていただけると嬉しいです。
 また、B-Pの著述等の引用や紹介について、誤記等が認められたら、また著作権上等の問題が感じられましたら、教えてくださると嬉しいです。


  私のB-Pスピリット研究
  @ ボーイスカウト運動についての諸考察 (2014.10.5)
  A スカウティングに託されたB-Pスピリット (2019.8.27)
  B 「隊長の手引」に記されたB-Pスピリット (2015.8.14)
  C ローバーリング ツウ サクセス に記されたB-Pスピリット (2015.8.15)
  D 「パトロール システム」に記されたフィリップスのスピリット (2015.9.26)
  E 進歩制度に託されたB-Pスピリット (2015.10.14)
  F 信仰の奨励に託されたB-Pスピリット (2015.10.12)
  G 野外活動に託されたB-Pスピリット (2015.11.29)
  H スカウト運動に託したB-Pスピリット (2016.7.14)
  I “ちかい”と“おきて”に託したB-Pスピリット (2016.12.12)
  ◎ ベーデン-パウエルのラストメッセージ B-P's Last Message
  J ボーイスカウト研究 (1979.12.14)
  K ボーイスカウト実践記 (1980.4.28)
  L ボーイスカウト活動プログラムの紹介 (1998.6.20)
  M 《資料》 スカウティング フォア ボーイズ 序文(1940年)
  N 《資料》B-Pの1926年の講演「ボーイスカウト・ガールガイド運動における宗教」



ボーイスカウト教育の三つのキーワード ― 「手本」「責任」「信頼」


 今回は、B-Pの著書“AIDS TO SCOUTMASTERSHIP”(隊長の手引,英国1920出版) から、私たちがボーイスカウト活動を展開するにあたって、また少年たちに接するにおいて、留意すべき事として記されているものについて抽出してみました。
 
 “AIDS TO SCOUTMASTERSHIP”の中の“Discipline(訓練・修養)”の節、及び "PRINCIPLES AND METHODS(原理と方法)" (SCOUTING FOR BOYS presentation edition PART THREE) の中の“Discipline”の節に、ほぼ同じ表現のくだりがあります。

 This teaching is largely reflected(effective) by means of example, by putting responsibility upon him and by expecting a high standard of trustworthiness from him.
 There lies our work.

 文章全体の感じから、私は、次のように訳しました。

 この教育は主に、@手本・実例・模範(example)によって、A少年に責任を持たせることによって、またB少年に信頼を高い水準で期待することによって、もたらされます(効果を発します)。
 ここに私たちの仕事があるのです。
(参考:「スカウティング フォア ボーイズ (1957発行 中村知氏訳本) 第3部 原理と方法」534頁 及び「隊長の手引(新訳版)」公益財団法人ボーイスカウト日本連盟 2006.5.26発行 52頁)

 私は、このくだりは、B-Pが、ボーイスカウト指導者に伝えたかった、ボーイスカウトの教育方法の柱の提示であると受け止めました。
 つまり、ボーイスカウト教育法の柱というのは三つあり、@指導者が手本を示すこと、Aスカウトに責任を持たせること、B指導者がスカウトを信じ切ること であると理解しました。

 これを補完すると思われる文が、“AIDS TO SCOUTMASTERSHIP”の各所に出てきます。それを以下に記し、その既訳本も参考にして自分なりの訳を続けて記してみました。
 なお、訳文の後の数字は、「隊長の手引(新訳版)」(公益財団法人ボーイスカウト日本連盟 2006年発行)の該当箇所の頁数です。


@ 指導者が手本を示すこと について

 Success in training the boy largely depends upon the Scoutmaster’s own personal example. It is easy to become the hero as well as the elder brother of the boy. We are apt, as we grow up, to forget what a store of hero worship is in the boy.
 The Scoutmaster who is a hero to his boys holds a powerful lever to their development, but at the same time brings a great responsibility on himself. They are quick enough to see the smallest characteristic about him, whether it be a virtue or a vice. His mannerisms become theirs, the amount of courtesy he shows, his irritations, his sunny happiness, or his impatient glower, his willing self-discipline or his occasional moral lapses ― all are not only noticed, but adopted by his followers.


 少年の訓練の成功不成功は、隊長自身が身をもって示すこと(Scoutmaster’s own personal example)に大きく依存しています。少年の兄になるのと同じくヒーローになることだって容易です。私たちは、大人になるにつれ、少年が持つ英雄崇拝の心の大きさを忘れてしまいがちです。
 少年たちにとってヒーローである隊長は、彼らの成長に対して強い影響力を持っていると共に、大きな責任が自分にかかっているのです。少年たちは、それが美徳であろうと、悪徳であろうと、隊長のごく些細な特徴をすばやく見つけ出してしまいます。隊長のくせは少年たちのくせとなり、彼が示す礼儀正しさ、いら立ち、幸せに満ちた陽気さ、不機嫌な顔つき、取り組んでいる自己鍛錬、時として犯してしまう道徳的なあやまち ― これらを少年たちは気づくだけではなく、取り込んでしまうのです。(p6)



 There is no teaching to compare with example. If the Scoutmaster himself conspicuously carries out the Scout Law in all his doings, the boys will be quick to follow his lead.
 This example comes with all the more force if the Scoutmaster himself takes the Scout Promise, in the same way as his Scouts.
 The first Law, namely, A Scout's honour is to be trusted (A Scout is Trustworthy), is one on which the whole of the Scout's future behaviour and discipline hangs. The Scout is expected to be straight. So it should be very carefully explained, as a first step, by the Scoutmaster to his boys before taking the Scout Promise.
 Its various clauses must be fully explained and made clear to the boys by practical and simple illustrations of its application in their everyday life.


 手本・実例・模範(example)にまさる教え方はありません。隊長がみずからそのすべての行動において、努めておきてを実行するならば、少年たちはそれにたちまち従うことでしょう。
 もし隊長が、スカウトたちと同じく、スカウトのちかいを誓うならば、彼の示す手本(example)は一層の力を持つことになります。
 おきての第一、すなわち「スカウトの名誉は信頼されることにある」(スカウトは誠実である・信頼できる)、これにスカウトの将来の行為と紀律の全体がかかっています。スカウトは真正直であってほしい。だから、スカウトが ちかい を立てるよりも先に、隊長みずからがこれを示すべきなのです。
 その他いろいろの項目を充分に説明し、毎日の生活に応用できる実用的で単純な用例でもって、少年たちがのみこめるようにしなければなりません。(p53)



 Personal Example  There is no doubt whatever that in the boys’ eyes it is what a man does that counts and not so much what he says. A Scoutmaster has, therefore, the greatest responsibility on his shoulders for doing the right thing from the right motives, and for letting it be seen that he does so, but without making a parade of it. Here the attitude of elder brother rather than of teacher tells with the greater force.

 隊長が示す手本(example) ― 少年たちの目には、大人が口にすることよりもすることの方がずっと強烈に映るものであることは疑いありません。それ故、隊長は正しい動機によって正しいことを行い、それを見せびらかすわけではないけれど、少年たちに見てもらうという重大な責任を持っています。ここでは、兄としての態度が、教師のような態度よりもずっと大きな力を持っているのです。(p65)


 In a small camp so very much can be done through the example of the Scoutmaster. You are living among your boys and are watched by each of them, and imitated unconsciously by them, and probably unobserved by yourself.
 If you are lazy they will be lazy; if you make cleanliness a hobby it will become theirs; if you are clever at devising camp accessories, they will become rival inventors, and so on.


 小規模のキャンプでは、ほとんどのことが隊長の示す手本(example)によって行われます。隊長は、少年たちとともに生活をし、少年たちから観察され、知らないうちにまねをされますが、そのことにおそらく隊長自身は気づいていないでしょう。
 もし隊長が怠け者なら少年たちも怠け者になるでしょう。もしいつも清潔にしていれば彼らもそうするでしょう。もし隊長がキャンプで使うちょっとした小物をうまく作れば、少年たちは直ちにライバルの創作者になることでしょう。(p85)



A スカウトに責任を持たせること について

 The Patrol System has also a great character-training value if it is used aright. It leads each boy to see that he has some individual responsibility for the good of his Patrol. It leads each Patrol to see that it has definite responsibility for the good of the Troop. Through it the Scoutmaster is able to pass on not only his instruction but his ideas as to the moral outlook of his Scouts. Through it the Scouts themselves gradually learn that they have considerable say in what their Troop does. It is the Patrol System that makes the Troop, and all Scouting for that matter, a real co-operative effort.

 パトロールシステムは、それが正しく運用されれば、品性・人格(character)訓練という大きな意義も持っています。パトロールシステムは、少年一人ひとりに、自分には班の維持存続のために自分にのしかかる責任があるということをわからせます。それはまた、各班が隊の維持存続のために一定の責任を持っていることをわからせます。このことをとおして、隊長は、指示事項だけではなく、スカウトのモラルについての自分の考えをも伝えることができるのです。このことをとおして、スカウトたちは、隊の諸事項についての重要な発言権を有していることを彼らなりに徐々に学んでいくのです。パトロールシステムこそが、隊を成すものであり、すべてのスカウティングを表すものであり、本当の協同の取り組みといえるのです。(p5)


 An invaluable step in character training is to put responsibility on to the individual. This is immediately gained in appointing a Patrol Leader to responsible command of his Patrol. It is up to him to take hold of and to develop the qualities of each boy in his Patrol.

 品性・人格(character)訓練における最重要のステップは、一人ひとりに責任を持たせることです。これは、班を責任もって指揮する班長を任命することですぐに実現します。自分の班の班員一人ひとりをしっかり捉えること、その質を向上させることは、班長の肩にかかっているのです。(p36)


 Responsibility is largely given through the Patrol System by holding the Leader responsible for what goes on amongst his boys.
 The object of the Patrol System is mainly to give real responsibility to as many of the boys as possible with a view to developing their character. If the Scoutmaster gives his Patrol Leader real power, expects a great deal from him, and leaves him a free hand in carrying out his work, he will have done more for that boy’s character expansion than any amount of school-training could ever do.
 Giving responsibility is the key to success with boys, especially with the rowdiest and most difficult boys.


 責任感は、主に、班員のために班長が責任を果たすという パトロールシステムの営みの中で養われていきます。
 パトロールシステムの趣旨は、できる限り多くの少年たちに、彼らの品性・人格(character)を育成するという意味で、本物の責任を与えようということなのです。もし隊長が班長に本当の権威を与え、彼に多くの期待をかけて、任務の遂行を任せるならば、彼の品性・人格(character)の発展のために、学校教育がなし得るよりも多くの貢献をすることになるのです。
 責任を持たせるということは、少年の扱いに成功する秘訣で、極めて乱暴者の最もむずかしい子どもを扱う場合に特にそうです。(p52・54)



B 指導者がスカウトを信じ切ること について

 Once the Scout understands what his honour is and has, by his initiation, been put upon his honour, the Scoutmaster must entirely trust him to do things. You must show him by Your action that you consider him a responsible being. Give him charge of something, whether temporary or permanent, and expect him to carry out his charge faithfully. Don't keep prying to see how he does it. Let him do it his own way, let him come a howler over it if need be, but in any case leave him alone and trust him to do his best. Trust should be the basis of all our moral training.

 ひとたびスカウトが自分の名誉とは何であるかを了解し、入隊式において彼の名誉にかけて隊員となったら、彼を信頼すべき人物だと思っていることを隊長は行動をもって示さなければなりません。臨時でも常任でもよいから何かの役目をつけて、彼がそれを忠実に実行していくことを期待してください。役目をどのようにやっているかと詮索してはいけません。自分の思いどおりにやらせて、必要ならば彼を苦境に陥らせてみてください。しかしいかなる場合でも構わずにおいて、彼は自分の最善を尽しているのだと信じてやってください。信頼こそが私たちの道徳訓練の基礎となるべきものなのです。(p54)


 As the boy becomes conscious of no longer being a Tenderfoot, but of being a responsible and trusted individual with power to do things, he becomes self-reliant. Hope and ambition begin to dawn for him.
 He could not but feel himself a more capable fellow than before, and therefore, he should have that confidence in himself which will give him the hope and pluck in time of stress in the struggle of life, which will encourage him to stick it out till he achieves success.


 少年は、自分はもう見習隊員ではなく、物事をやっていくだけの力がある一人の人間として責任が課せられ、信頼されているのだと自覚するにつれ、自立するようになります。希望と野心が芽生えてきます。
 彼は以前よりも有能な人間になったと感じざるを得なくなるので、それは自信となり、その自信は人生の戦いにおいて困難に接した時に希望と勇気を与え、成功するまでやり遂げさせる力となることでしょう。(p55)



 The main thing is for the Scoutmaster to have the lad's full confidence as a first step, and to be to him in the relation of an elder brother ― where both can speak quite openly.

 隊長にとって大切なことは、まずは隊長が少年の全面的な信頼を得、そしてその子に対して兄としての関係になること ― つまり双方が心を打明けて話し合う間柄になることです。(p91)

 
 B-Pは、指導者の行動規範として、example の語を随所に用いています。その訳として、「隊長の手引」の邦訳本では 手本 が用いられています。「スカウティング フォア ボーイズ」の邦訳本S32年版では 実例、範例 が用いられています。文字通り手本とか実例と受け取れるところは多いですが、その人の行為のすべてを指している場合もあると感じました。ここでは“手本・実例・模範(example)”を用い、文意を基に、日本語におけるニュアンスから、訳の用語を選択することにしました。*
 
 B-Pは、スカウトが獲得すべき気質として、character の語を随所に用いています。邦訳本の「隊長の手引」において、日本連盟S32発行本ではそれを 人格(性格) または 人間 の語を、新訳版2006.5.26発行本では 性格 の語を用いています。日本語の 人格 や 性格 は、ニュアンスとしては生得的な、またはその個体に内在している資質の発現という感じのもので、訓練によって意図的に変化させられるものではないものと感じます。よって、邦訳本の 人格、性格 の語は、若干、違和感、不自然さを感じておりました。
 B-Pが用いた character のニュアンスは、「ある個人特有の道徳的性質の総和で、人物の価値の基準となるもの」(研究社新英和中辞典)に近いと感じます。日本語で言えば、品性、「あの人は人格者だ」と言い回す時の人格、人間像 個性、徳性 等が近いと感じます。どの語を用いようかと迷いましたが、ここでは“品性・人格(character)”を用いることにしました。
 B-Pは敬虔なクリスチャンであり、Christian Character を人が備えるべき気質と捉えていました。そこから character の語に託すB-Pの理想や夢があり、または Christian Character そのものであったとも思われます。* *


 以上の論理展開をもとに、B-Pスピリットを受け継いだらならば、隊の指導者は、スカウトに対しどんな態度で接したらよいか、またどのように隊を運営していったらよいか、ある程度、具体的なイメージが浮かぶのではないかと思います。
 ボーイスカウト教育法の三つの柱の習熟と実践こそが、ボーイスカウト運動にたずさわる指導者の責務と言ってよいのかもしれません。


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 以下、私なりに少し補足します。

 成人指導者はスカウトたちの手本たれ
 要するに、B-Pがボーイスカウト活動において隊の成人指導者に求めていることは、「スカウトたちの手本たれ」です。スカウトは大人を見つめています。かっこいい、模範となる大人の振る舞いを見ることによって、スカウトは、大人の存在を認め、信じ、頼り、真似をして、大人に対して敬意を払うようになっていくことでしょう。そして自分がそのような大人になることにあこがれをいだき、そのような大人になるよう努力するようになっていく、それをB-Pは期待したのだと思います。
 見守っているだけでは事は進みません。成人指導者が、プログラムを準備し、実施し、その中でどのように演じるかということがものを言うのであって、私たちはその責務を強く意識しなければなりません。スカウトに、「このリーダーすごい!」と言わせる演出が大切と思っています。

 成人指導者の配慮
 私の少年時代の体験です。ある会合でのことでした。初対面の大人の人でしたが、私の前に来て、突如私の名前を言ってあいさつをされたのです。これは私にとって大きなインパクトでした。すごいと思いました。この時の感動を胸に、私が大人になってからも、人に会うときはできる限り事前に顔と名前を覚えて、相手に対する代名詞を使わない会話を心掛けています。
 スカウトに接するときは、必ず相手の目を見て話すようにし、私はあなたを知っているよ、気にかけているよ、心配しているよ、という雰囲気を醸し出すように努めています。この雰囲気に含まれるメッセージは、良い人間関係を築くのにとても有効なツールになります。

 成人指導者のパフォーマンス
 スカウトたちの自発性、自主性を育てるまたは尊重するという観点から、スカウトたちにプログラムや作品等を作らせることはよくあることです。でも、作らせるだけでは不十分です。その結果やできた作品等に対する評価、すなわち褒めるということが必須です。このプロセスがあることによるスカウトに芽生える意欲は絶大です。でもこれだけではまだ不十分と思います。スカウトたちが作った作品等に成人指導者が更に手を加え、または成人指導者自身が同じ課題のものを独自に作りそれを見せ、「こんなにも素敵になるよ。」と示すプロセスが大切と思います。そうしてスカウトから、「すごい!」「さすが!」という声を聞くことができたならばしめたものです。


 褒めるということ
 よく、進級したら、バッジを取得したら、セレモニーの場で最大限に褒め称えよ、と言われます。B-Pは、諸著書の中で、バッジ取得に対し、褒める(praise, applaud, admiration, reward 等)という言葉はまったく使っていません。B-Pがそのフレーズにおいてよく用いていた言葉は encourage(励ます・自信を与える)です。褒め称えるという対応は、ボーイスカウトがアメリカで展開される中で取り上げられ、推奨されてきた方法と思います。ディズニー映画の「カールじいさんの空飛ぶ家」にアメリカボーイスカウト型のバッジ授与式の様子が描写されていました。B-Pにとっては思いもよらない演出かもしれませんが、現代的にはとても効果のある演出であると思います。
 一人にそっと褒めるというのではなく、多くの人がいる前でその子を褒め称える、このことの効果と意義を心得ておくことはとても大切なことと思います。


 成人指導者の介入の意義
 B-Pは、「必要ならば彼を苦境に陥らせてみてください。(let him come a howler over it if need be,) 」と述べていますが、これを安易に「失敗させてもよい」と解してはいけません。失敗に至る前に成人指導者が修正の手立てを講じてこれを回避しなければならないこともあるはずです。スカウトが苦境に陥ったとき、成人指導者が適切に介入し、失敗回避のために必死に振る舞う姿を見せることによって、スカウトは、責任というものの重みを実感するのです。その介入の絶妙さがものを言うのです。これを間違えると、スカウトに、「大人なんて頼りにならない」、また、「自分は当てにされていないんだ」という思いを抱かせてしまいます。更には、「失敗したってどおってことない」、「責任(任務、指示、規則、義務、約束、決定、決意を守ること)なんて軽いものだ」、という観念さえも生じさせてしまうことになります。

 指示と完結
 隊長がスカウトに指示をするということは日常的なことであるわけですが、指示を下したからには、それは必ず完結させなければいけません。指示をしたけれど、スカウトはそれを成し遂げることができなかった、とか、スカウトはそれを拒否した、または無視したなどという結末にさせてはいけないということです。そのような結末になるということは往々にあると思いますが、これは結局、隊長が配慮を怠った、または間違った指示をしていたということを意味します。でも、指示をする時点ではそれはわからない、予想がつかないという場合も多いと思います。ですから、隊長が指示をして、それをスカウトが成し遂げることができなかったときは、隊長みずからが代わってそれを成し遂げることが必要になります。そしてそれをスカウトに見せる。これが責任の重みをスカウトに知らしめる重要なプロセスになるのです。
 指示のしっぱなしは、最大の無責任の表明です。これは絶対にスカウトに見せてはならない隊長の態度です。


 成人指導者の責任
 上に立つスカウト(班長等)の失敗によって次に続くスカウトたちが不利益を被ったり犠牲になること、また、失敗したスカウトが他のスカウトから非難を受けること、また、スカウト集団内の体罰やいじめ、差別等の正義からの逸脱行為は、どんなことがあっても避けなければなりません。これらは、スカウトたちのみならず、スカウトたちの親、社会に対する、成人指導者に存する責任であることを強く意識しなければなりません。


 成人指導者と覚悟
 活動中の負傷や事故の防止のための最大限の配慮が必要です。安全に対する心構えや体制づくり、工夫の努力は怠ってはなりません。万が一そのようなことが起こってしまったならば、渾身の誠意を尽くすべきです。私たちは、ひとさまの大切な子弟の大切な時間の一部を預かっているのです。その人たちのニーズをとらえ、期待に応え、安全の中で活動を維持する体制と、何かことがあれば全身全霊を以て対処するという責任感と覚悟をもって応じる態度が必要と思っています。


ありがとうございました。(2015.8.14)


 参考までに
 AIDS TO SCOUTMASTERSHIP (隊長の手引) (カナダ ScoutsCan.com ウェブサイト)
 <http://www.thedump.scoutscan.com/a2sm.pdf>
 「隊長の手引」 ボーイスカウト日本連盟訳 (やんちゃ隊の資料庫 ウェブサイト)
 <http://scout.o.oo7.jp/AIDSTOSCOUTMASTERS.pdf>
 「隊長の手引」 ボーイスカウト日本連盟訳 (ボーイスカウト茨城県連盟ウェブサイト)
 <http://www.scout-ib.net/09SCIB-DB/ASM/AidToSM-1.html>
 <http://www.scout-ib.net/09SCIB-DB/ASM/AidToSM-2.html>


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