私のB-Pスピリット研究 B 「隊長の手引」に記されたB-Pスピリット ―― Scoutmaster’s own personal example ――
今回は、B-Pの著書“AIDS TO SCOUTMASTERSHIP”(隊長の手引,英国1920出版) から、私たちがボーイスカウト活動を展開するにあたって、また少年たちに接するにおいて、留意すべき事として記されているものについて抽出してみました。 “AIDS TO SCOUTMASTERSHIP”の中の“Discipline(訓練・修養)”の節、及び "PRINCIPLES AND METHODS(原理と方法)" (SCOUTING FOR BOYS presentation edition PART THREE) の中の“Discipline”の節に、ほぼ同じ表現のくだりがあります。 This teaching is largely reflected(effective) by means of example, by putting responsibility upon him and by expecting a high standard of trustworthiness from him. 文章全体の感じから、私は、次のように訳しました。 この教育は主に、@手本・実例・模範(example)によって、A少年に責任を持たせることによって、またB少年に信頼を高い水準で期待することによって、もたらされます(効果を発します)。 私は、このくだりは、B-Pが、ボーイスカウト指導者に伝えたかった、ボーイスカウトの教育方法の柱の提示であると受け止めました。 つまり、ボーイスカウト教育法の柱というのは三つあり、@指導者が手本を示すこと、Aスカウトに責任を持たせること、B指導者がスカウトを信じ切ること であると理解しました。 これを補完すると思われる文が、“AIDS TO SCOUTMASTERSHIP”の各所に出てきます。それを以下に記し、その既訳本も参考にして自分なりの訳を続けて記してみました。 なお、訳文の後の数字は、「隊長の手引(新訳版)」(公益財団法人ボーイスカウト日本連盟 2006年発行)の該当箇所の頁数です。 @ 指導者が手本を示すこと について Success in training the boy largely depends upon the Scoutmaster’s own personal example. It is easy to become the hero as well as the elder brother of the boy. We are apt, as we grow up, to forget what a store of hero worship is in the boy. A スカウトに責任を持たせること について The Patrol System has also a great character-training value if it is used aright. It leads each boy to see that he has some individual responsibility for the good of his Patrol. It leads each Patrol to see that it has definite responsibility for the good of the Troop. Through it the Scoutmaster is able to pass on not only his instruction but his ideas as to the moral outlook of his Scouts. Through it the Scouts themselves gradually learn that they have considerable say in what their Troop does. It is the Patrol System that makes the Troop, and all Scouting for that matter, a real co-operative effort. B 指導者がスカウトを信じ切ること について Once the Scout understands what his honour is and has, by his initiation, been put upon his honour, the Scoutmaster must entirely trust him to do things. You must show him by Your action that you consider him a responsible being. Give him charge of something, whether temporary or permanent, and expect him to carry out his charge faithfully. Don't keep prying to see how he does it. Let him do it his own way, let him come a howler over it if need be, but in any case leave him alone and trust him to do his best. Trust should be the basis of all our moral training. B-Pは、指導者の行動規範として、example の語を随所に用いています。その訳として、「隊長の手引」の邦訳本では 手本 が用いられています。「スカウティング フォア ボーイズ」の邦訳本S32年版では 実例、範例 が用いられています。文字通り手本とか実例と受け取れるところは多いですが、その人の行為のすべてを指している場合もあると感じました。ここでは“手本・実例・模範(example)”を用い、文意を基に、日本語におけるニュアンスから、訳の用語を選択することにしました。* B-Pは、スカウトが獲得すべき気質として、character の語を随所に用いています。邦訳本の「隊長の手引」において、日本連盟S32発行本ではそれを 人格(性格) または 人間 の語を、新訳版2006.5.26発行本では 性格 の語を用いています。日本語の 人格 や 性格 は、ニュアンスとしては生得的な、またはその個体に内在している資質の発現という感じのもので、訓練によって意図的に変化させられるものではないものと感じます。よって、邦訳本の 人格、性格 の語は、若干、違和感、不自然さを感じておりました。 B-Pが用いた character のニュアンスは、「ある個人特有の道徳的性質の総和で、人物の価値の基準となるもの」(研究社新英和中辞典)に近いと感じます。日本語で言えば、品性、「あの人は人格者だ」と言い回す時の人格、人間像 個性、徳性 等が近いと感じます。どの語を用いようかと迷いましたが、ここでは“品性・人格(character)”を用いることにしました。 B-Pは敬虔なクリスチャンであり、Christian Character を人が備えるべき気質と捉えていました。そこから character の語に託すB-Pの理想や夢があり、または Christian Character そのものであったとも思われます。* * 以上の論理展開をもとに、B-Pスピリットを受け継いだらならば、隊の指導者は、スカウトに対しどんな態度で接したらよいか、またどのように隊を運営していったらよいか、ある程度、具体的なイメージが浮かぶのではないかと思います。 ボーイスカウト教育法の三つの柱の習熟と実践こそが、ボーイスカウト運動にたずさわる指導者の責務と言ってよいのかもしれません。 以下、私なりに少し補足します。 成人指導者はスカウトたちの手本たれ 要するに、B-Pがボーイスカウト活動において隊の成人指導者に求めていることは、「スカウトたちの手本たれ」です。スカウトは大人を見つめています。かっこいい、模範となる大人の振る舞いを見ることによって、スカウトは、大人の存在を認め、信じ、頼り、真似をして、大人に対して敬意を払うようになっていくことでしょう。そして自分がそのような大人になることにあこがれをいだき、そのような大人になるよう努力するようになっていく、それをB-Pは期待したのだと思います。 見守っているだけでは事は進みません。成人指導者が、プログラムを準備し、実施し、その中でどのように演じるかということがものを言うのであって、私たちはその責務を強く意識しなければなりません。スカウトに、「このリーダーすごい!」と言わせる演出が大切と思っています。 成人指導者の配慮 私の少年時代の体験です。ある会合でのことでした。初対面の大人の人でしたが、私の前に来て、突如私の名前を言ってあいさつをされたのです。これは私にとって大きなインパクトでした。すごいと思いました。この時の感動を胸に、私が大人になってからも、人に会うときはできる限り事前に顔と名前を覚えて、相手に対する代名詞を使わない会話を心掛けています。 スカウトに接するときは、必ず相手の目を見て話すようにし、私はあなたを知っているよ、気にかけているよ、心配しているよ、という雰囲気を醸し出すように努めています。この雰囲気に含まれるメッセージは、良い人間関係を築くのにとても有効なツールになります。 成人指導者のパフォーマンス スカウトたちの自発性、自主性を育てるまたは尊重するという観点から、スカウトたちにプログラムや作品等を作らせることはよくあることです。でも、作らせるだけでは不十分です。その結果やできた作品等に対する評価、すなわち褒めるということが必須です。このプロセスがあることによるスカウトに芽生える意欲は絶大です。でもこれだけではまだ不十分と思います。スカウトたちが作った作品等に成人指導者が更に手を加え、または成人指導者自身が同じ課題のものを独自に作りそれを見せ、「こんなにも素敵になるよ。」と示すプロセスが大切と思います。そうしてスカウトから、「すごい!」「さすが!」という声を聞くことができたならばしめたものです。 褒めるということ よく、進級したら、バッジを取得したら、セレモニーの場で最大限に褒め称えよ、と言われます。B-Pは、諸著書の中で、バッジ取得に対し、褒める(praise, applaud, admiration, reward 等)という言葉はまったく使っていません。B-Pがそのフレーズにおいてよく用いていた言葉は encourage(励ます・自信を与える)です。褒め称えるという対応は、ボーイスカウトがアメリカで展開される中で取り上げられ、推奨されてきた方法と思います。ディズニー映画の「カールじいさんの空飛ぶ家」にアメリカボーイスカウト型のバッジ授与式の様子が描写されていました。B-Pにとっては思いもよらない演出かもしれませんが、現代的にはとても効果のある演出であると思います。 一人にそっと褒めるというのではなく、多くの人がいる前でその子を褒め称える、このことの効果と意義を心得ておくことはとても大切なことと思います。 成人指導者の介入の意義 B-Pは、「必要ならば彼を苦境に陥らせてみてください。(let him come a howler over it if need be,) 」と述べていますが、これを安易に「失敗させてもよい」と解してはいけません。失敗に至る前に成人指導者が修正の手立てを講じてこれを回避しなければならないこともあるはずです。スカウトが苦境に陥ったとき、成人指導者が適切に介入し、失敗回避のために必死に振る舞う姿を見せることによって、スカウトは、責任というものの重みを実感するのです。その介入の絶妙さがものを言うのです。これを間違えると、スカウトに、「大人なんて頼りにならない」、また、「自分は当てにされていないんだ」という思いを抱かせてしまいます。更には、「失敗したってどおってことない」、「責任(任務、指示、規則、義務、約束、決定、決意を守ること)なんて軽いものだ」、という観念さえも生じさせてしまうことになります。 指示と完結 隊長がスカウトに指示をするということは日常的なことであるわけですが、指示を下したからには、それは必ず完結させなければいけません。指示をしたけれど、スカウトはそれを成し遂げることができなかった、とか、スカウトはそれを拒否した、または無視したなどという結末にさせてはいけないということです。そのような結末になるということは往々にあると思いますが、これは結局、隊長が配慮を怠った、または間違った指示をしていたということを意味します。でも、指示をする時点ではそれはわからない、予想がつかないという場合も多いと思います。ですから、隊長が指示をして、それをスカウトが成し遂げることができなかったときは、隊長みずからが代わってそれを成し遂げることが必要になります。そしてそれをスカウトに見せる。これが責任の重みをスカウトに知らしめる重要なプロセスになるのです。 指示のしっぱなしは、最大の無責任の表明です。これは絶対にスカウトに見せてはならない隊長の態度です。 成人指導者の責任 上に立つスカウト(班長等)の失敗によって次に続くスカウトたちが不利益を被ったり犠牲になること、また、失敗したスカウトが他のスカウトから非難を受けること、また、スカウト集団内の体罰やいじめ、差別等の正義からの逸脱行為は、どんなことがあっても避けなければなりません。これらは、スカウトたちのみならず、スカウトたちの親、社会に対する、成人指導者に存する責任であることを強く意識しなければなりません。 成人指導者と覚悟 活動中の負傷や事故の防止のための最大限の配慮が必要です。安全に対する心構えや体制づくり、工夫の努力は怠ってはなりません。万が一そのようなことが起こってしまったならば、渾身の誠意を尽くすべきです。私たちは、ひとさまの大切な子弟の大切な時間の一部を預かっているのです。その人たちのニーズをとらえ、期待に応え、安全の中で活動を維持する体制と、何かことがあれば全身全霊を以て対処するという責任感と覚悟をもって応じる態度が必要と思っています。 ありがとうございました。(2015.8.14) 参考までに AIDS TO SCOUTMASTERSHIP (隊長の手引) (カナダ ScoutsCan.com ウェブサイト) <http://www.thedump.scoutscan.com/a2sm.pdf> 「隊長の手引」 ボーイスカウト日本連盟訳 (やんちゃ隊の資料庫 ウェブサイト) <http://scout.o.oo7.jp/AIDSTOSCOUTMASTERS.pdf> 「隊長の手引」 ボーイスカウト日本連盟訳 (ボーイスカウト茨城県連盟ウェブサイト) <http://www.scout-ib.net/09SCIB-DB/ASM/AidToSM-1.html> <http://www.scout-ib.net/09SCIB-DB/ASM/AidToSM-2.html>
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